2009年11月18日水曜日

山陽新聞 押し紙裁判 準備書面

平成20年(ワ)第943号 損害賠償請求事件
原 告 原 渕 茂 浩
被 告 株式会社山陽新聞社ほか2名
2008年9月29日

準備書面(1)

岡山地方裁判所第1民事部合議係 御中

原告訴訟代理人
 弁護士 位 田   浩


第1 被告の答弁書第3(救釈明事項)について
 1 第1項について
   原告の被告らに対する各請求は不真正連帯の関係である。
 2 第2項について
   原告の主張は、請求原因第5の1(5)のとおりである。解釈例規・裁判例等は不知。
 3 第3項について
 (1) 購読部数について
    訴状添付一覧表の「購読部数」は、各月の読者一覧表(または発行表)の合計欄記載の部数から、架空部数(=読者一覧表の読者欄の「原渕」の部数。セット17部、朝刊119部)を控除して、実際の購読者数を算出したものである。(甲12の1・2~甲60の1・2。なを、2003年5月は読者一覧表の合計欄の項及び発行表を紛失したため、同年4月分と同じ数とした)。
 (2) 送り部数について
    「送り部数」は実際に販売会社から供給された部数であり、被告らが決定した目標部数と基本的に一致することから、目標決定書(甲2の1~9)の目標数をもとに算出した。なお、2003年2月~10月及び2004年2月~11月の各月の夕刊目標数は、資料がないため、前者の期間については2003年1月の347部(甲2の4)のままとし、後者の期間については2004年1月の296部(甲2の5)のままとした。 
    夕刊を購読する読者の中には、朝夕セットで購読する読者だけでなく、夕刊のみの読者がいる。毎月の読者一覧表(または発行表)合計欄の夕刊の読者数がそれである。そこで、「セットの送り部数」は、夕刊目標数から夕刊のみの読者数を控除した。
    「朝刊の送り部数」は、目標数から「セットの送り部数」を控除した。
(3) 訴状添付の一覧表を精査したところ一部に誤りがあったので、本書添付の別紙一覧表のとおり訂正する。
第2 被告らの平成20年8月25日付求釈明申立事項について
 1 第1項について
   担当者は、2003(平成15)年8月頃から2004(平成16)年3月頃までは千房、同年4月から2005(平成17)年6月頃まで赤木、同年7月頃から2007(平成19)年11月頃まで小林であった。
   被告らの引用する①の事実については、時期は特定できないが、これら3名のいずれもがしていたことである。また、被告らの引用する②の事実についても、これら3名のいずれもがしていたことである。時期は特定できないが、担当者が岡輝センターを訪店するたびに言っていたことである。
 2 第2項について
   架空の領収書については、山陽新聞販売からの押し紙が増えるようになった2001年~2002年頃、当時の担当者から、原告自らが何十部もの新聞を購読しているように読者一覧表に掲載させて、架空の領収書を作るように教えられたものである。原告は、その指示に従って、自らが何十部も購読しているかのような申告をし、㈱山陽計算センターで架空の領収書を作成してもらうことになった。
第3 販売会社が販売センターにとって優位的地位にあること等
 1 被告山陽新聞社が山陽新聞販売(被告岡山東販売)の株式の66.37%を保有し、被告岡山東販売が被告岡山西販売の全株式を保有していることは被告らの認めるところである。したがって、被告山陽新聞社は、資本的に、山陽新聞販売(被告岡山東販売)と被告岡山西販売の2つの販売会社を支配下においている。
 2 山陽新聞販売(被告岡山東販売)及び被告岡山西販売の役員は、次のとおり、被告山陽新聞社の役員や同社販売局の社員及び元社員によって独占されている。しかも、被告山陽新聞社の2名の代表取締役はいずれも、2つの販売会社の取締役を兼任している。
   佐々木勝美 被告山陽新聞社代表取締役会長
   藤田 学  被告山陽新聞社専務取締役(販売担当)
   鈴木 勝利 山陽新聞販売元営業本部長
   久山 敏昌 被告山陽新聞社販売局部長
   小野 敏行 被告山陽新聞社販売局長待遇
   土井 雅人 被告山陽新聞社販売局長
   赤木 弘敞 被告山陽新聞社販売局部長
   越宗 孝昌 被告山陽新聞社代表取締役社長
   矢部 正夫 被告山陽新聞社販売局次長
   中塚 浩三 被告山陽新聞社経理局長
(2) 被告岡山西販売について
  三宅 登久 被告山陽新聞社販売局次長
  佐々木勝美 被告山陽新聞社代表取締役会長
  越宗 孝昌 被告山陽新聞社代表取締役社長
  今井 康人 被告山陽新聞社販売局次長
  中塚 浩三 被告山陽新聞社経理局長
 これからすれば、山陽新聞販売(被告岡山東販売)及び被告岡山西販売は、その意思決定及び業務執行においても、被告山陽新聞社の完全なる支配下にあることは明白である。

3 以上のとおり、山陽新聞販売(被告岡山東販売)及び岡山西販売は被告山陽新聞社の完全な支配下にある。両被告販売会社による「押し紙」販売政策が被告山陽新聞社の意思に基づくことも疑う余地はない。
  販売業者である原告にとってみれば、両被告販売会社は、新聞発行業者たる被告山陽新聞社と実質的に同一であって、取引上の優位的な地位にあったのである。両被告販売会社による原告への「押し紙」は、独占禁止法の禁止する「不公正な取引方法」に当たるというべきである。
             以上



平成20年 (ワ)第943号 損害賠償請求事件
原 告 原渕茂浩
被 告 株式会社山陽新聞社ほか2名
平成20年10月27日
岡山地方裁判所第1民事部 御中
被告3名訴訟代理人弁護士 香 山 忠 志

準備書面(1)

第1 告示第9号の3項名宛人が販売会社を含むという原告の主張は原告独自の見解である。
1 告示第9号の第3項名宛人は「発行本社」である。
(1)  独占禁止法は禁止行為の1つである「不公正が取引方法」の規制に関し、具体的な内容については、公正取引委員会の告示で指定する法形式を採用している。この法形式には一般指定と特殊指定がある。
(2)  特殊指定のメリットと発行会社の定義規定
 特殊指定のメリットは、適用を受ける事業者の範囲を明確にできることと、当該業界において不公正な取引方法として違法となる行為類型を具体的に規定できることの2点である(公正取引委員会のホームページ)。
 平成11年7月21日付公正取引委員会告示第9号(乙1の46項、乙2の10項以下。)で
「3項 発行業者が、販売業者に対し、正当かつ合理的な理由がないのに、次の各号のいずれかに該当する行為をすることにより、販売業者に不利益をあたえること。
一 販売業者が注文した部数を超えて新聞を超えて供給すること(販売業者からの減紙の申出に応じない方法による場合を含む。)
二 販売業者に自己の指示する部数を注文させ当該部数の新聞を供給すること。」
と規定されているが、そこでの「発行業者」とは、第1項に定義されているように「日刊新聞の発行を業とする者」であり、また、「販売業者」とは、第2項「新聞を戸別配達の方法により販売することを業とする者」と明確に定義されている。また、こうした販売業者には第2項で「直接であると間接であるとを問わず、地域又は相手方により、定価を割り引いて新聞を販売すること」が独占禁止法上は禁止されているのみである。
(3) 改正の経緯
 昭和39年公正取引委員会告示第14号が改正されて、現行の告示第9号となったわけであるが、平成11年6月9日に公正取引委員会から改正案(現行告示内容と同旨)が示され、同月30日に公聴会の開催が告示され、同年7月5日に公聴会が開かれ、関係団体から意見が聴取されているが、そのなかで、告示第9号の第3項に関して「発行会社」の概念の中に被告岡山東販売、西販売といった販売会社を含むのかといった問題提起も議論も全くなされていない。その改正の経緯からも、原告主張は認められない(乙3の1~4。出所:公正取引委員会ホームページ)。
(4) 憲法31条との関係
 特殊指定に違反すると、違反行為を速やかに止めること等を命じる排除措置命令が出される。この排除措置命令に不服のある事業者は、その取消しを求める審判を請求できる。排除命令が確定しながらも事業者が命令主文に従わない場合には確定排除命令違反として刑事罰の対象となる。
  そうすると原告主張のように、法令上の根拠もないのに、字句を拡張解釈して、第3項の「発行業者」に販売会社も含むとするなら、公正取引委員会の排除措置命令という権力行為が、販売会社に対してもなされることになるが、これでは国民の予測可能性を侵害し国民に不足の損害を与えるものであり、憲法31条に違反する解釈というべきである。
2 かのようにして被告岡山東販売、被告岡山西販売に対する原告への新聞供給行為が特殊指定の告示第9号の対象行為ではない。また、被告山陽新聞社は原告に新聞を販売していない(新聞を供給していない)。原告は内容証明郵便の段階で、被告山陽新聞社と原告との接点がないことを承知していたため、被告山陽新聞社を相手としていなかったのである(乙4の1,2)。
3 被告山陽新聞社は原告に新聞を供給していないから全く告示第9号のたいしょうではないし、被告岡山東販売、被告岡山西販売の原告への新聞の供給行為も告示第9号に該当するものではないと考えているが、仮に該当した場合でも、原告の被告岡山東販売、被告、岡山西販売との新聞の取引行為について若干意に沿わないところがあったとしても、原告は諸々の利害損得を考慮のうえで取引を続けてきたものであり、被告岡山東販売、岡山西販売との新聞の供給行為が民法709条の不法行為に該当するとの主張は全く的外れである。発行会社から販売委託を受けた者が原告と同旨の裁判を起こしている例も散見されるが、いずれも棄却されている(乙5、乙6の1、2)。

第2 原告の準備書面(1)第1、第2に対する反論
1 原告の準備書面(1)第1の3(2)送り部数について
 本文上から5行目の347部とあるのは314部の、同6行目296部とあるのは286部の間違いである。
 同第2の1について
 否認する。なを、「2004(平成16)年3月頃までは千房」とあるのが、「2004(平成16)年2月頃までは末森」の間違いである。指摘の千房、末森、小林がそのような発言をしたことはない。仮にそのような発言があったとしても、被告岡山東販売、岡山西販売はいずれも販売会社であるから、販売部数を伸ばすことが同被告らと原告の共通の目標であることを原告は理解し目標数を合意したものである。

3 同第2の2について
 否認する。当時の担当者は既に退職している山崎、妹尾の両部長であるが、両名ともそうした事実を否認している。それ以外の者も原告が主張する架空の領収書を作成するよう指示したものは存在しない。そのようなことを被告らの担当者が何のために教える必要があるのか。原告の売上が伸びなければ契約を解消し、販売会社の直営店にするか新たに別の希望者に任せれば済むことである。一体、担当者とは誰のことを言っているのか明らかにすべきである。

第3 原告の準備書面(1)第3に対する反論
1 原告の同準備書面第3の主張は全面的に争う。
2(1) 確かに被告山陽新聞社は被告岡山東販売の株式の66.37%、被告岡山東販売は被告岡山西販売の全株式を保有している。(なお、被告山陽新聞社と被告岡山西販売とは資本関係はない。)。 しかし、その故に被告山陽新聞社が被告岡山東販売、被告岡山西販売を支配しているとか実質的に同一であるとかはいえない。被告山陽新聞社の被告岡山東販売への持ち株は3分の2にも達しないものである。会社法309条第2項列挙の重要な事項については決定権もなく、当然4分の3の議決権を要する決定(会社法309条第4項)もできず、被告山陽新聞社が被告岡山東販売及び被告岡山西販売を支配することが出来ようはずがない。
(2) もともと山陽新聞販売株式会社の前身は、昭和8年10月に設立された株式会社中国
民報販売所である、その後、合同新聞販売株式会社、岡山新聞販売株式会社の経緯をたどり、昭和27年に専売制度への移行に伴い、山陽新聞を増紙する目的で山陽新聞販売株式会社が設立された。その後、各銘柄の新聞を取り使う合売政策が進められてきた。現に、山陽新聞販売は、被告岡山東販売、被告岡山西販売に分割後も山陽新聞の販売だけではなく、デイリーや日経新聞、産経新聞など他の新聞の販売も取り扱っている。答弁書でも述べたが、被告山陽新聞社には、被告岡山東販売、被告岡山西販売はその内の2つにすぎない。また、時期により異なるが、販売会社の役員には販売会社採用の社員から就任していた例も多々存在する。例えば、原告が岡輝販売センター長に就任した平成12年5月から平成17年まで山陽新聞販売の取締役営業本部長を務めた鈴木勝利氏は販売会社からの生え抜きであり、しかも山陽新聞販売の営業部門をはじめ人事なども取り仕切っていたことは原告も承知していたはずである。
(3) 次に、被告らは3社とも本店所在地もそれぞれ異なり、収支決算もそれぞれ独自に行
っており、資産・負債も別々であり、その混同はない。販売会社の役員会も独自に行っている。人事については、もちろん山陽新聞社と販売会社との間で交流はあるが、販売会社が独自に採用した従業員も多数存在するし、山陽新聞の身分を有して山陽新聞社の仕事をしながら販売会社の身分を有し販売会社の仕事をするといった混同行為もない。販売センターの目標数、実売部数などは、すべて山陽新聞販売(後の被告岡山東販売)と被告岡山西販売が管理し被告山陽新聞社は関与していない。
(4) 被告山陽新聞社は被告岡山東販売、被告岡山西販売を支配してもいないし実質的に同一でもない。被告岡山東販売、被告岡山西販売は原告に対し優位的地位にあるわけでもない。原告の主張する優位的地位とは極めて抽象的なものであり、法的効果を左右しない。



平成20年(ワ)第943号 損害賠償請求事件
原 告 原 渕 茂 浩
被 告 株式会社山陽新聞社ほか2名
2009年1月13日

準備書面(2)

岡山地方裁判所第1民事部合議係 御中

原告訴訟代理人
 弁護士 位 田   浩

 本準備書面は、被告らの平成20年10月27日付準備書面に対する反論を行うものである。


第1 上記被告ら準備書面(1)第1に対する反論
 1 公正取引委員会告示第9号(甲7)の「発行業者」には、日刊新聞発行業者の子会社たる新聞販売会社も含むと解すべきであることについて
(1) 被告らは、上記告示の第3項の「発行業者」は「日刊新聞の発行を業とする者」であり、山陽新聞販売(被告岡山東販売)や被告岡山西販売はこれに該当せず、同告示の適用対象ではないと主張し、その根拠として、①特殊指定により適用を受ける事業者の範囲を明確にできること、②同告示の平成11年の改正時に「発行業者」に同被告らのような販売会社を含むかどうかといった議論がなされていないこと、③同告示に違反して公取委による排除措置命令を受ける者に販売会社が含まれると解することは同命令に違反すると刑事罰がある以上拡張解釈として許されないことをあげている。
   しかし、被告らの主張は形式論理にすぎず、あるいは法的根拠のないものであって、いずれも失当である。
(2) 公取委は、新聞の乱売合戦による悪癖を規制するために今から50年以上も前の1955(昭和30)年に「新聞業における特定の不公正な取引方法」を指定した。すでにそのときから、実際に販売可能な部数を超える「押し紙」を新聞社が販売店に供給する行為については、販売店に不利益をもたらす不公正な取引として禁止されてきた(乙2・6)。
   このような告示の趣旨は、経済的劣位に立つ販売店が不当な不利益をこうむらないようにすることにより販売店の自由な事業活動を保護することを目的とするものである。(甲6)。したがって、本件のように、戸別配達を行う販売店に新聞を供給する販売会社が発行業者と同じく実質的に優位的地位にある場合には、第3項の「発行業者」には、販売会社を含むものと解することが法規則の趣旨に合致するものといわざるをえない。しかも、本件の場合には、販売会社は発行業者の支配化にある子会社であるから、その地位は発行業者の同視しうるものである。
   なお、原告が告示の「新聞を個別配達の方法により販売することを業とする者」=「販売業者」であることはいうまでもない。
(3) 1999年の告示改正の際に議論されていないことは、ただ単に議論されなかったというにすぎない。「発行業者」に販売会社を含まないという確認もなされていないことから明白である。
   したがって、議論のないことが上記(2)の解釈を否定する根拠となるものではない。
(4) 告示第3項のような「不公正な取引方法」に関する違反行為については、独占禁止法には罰則が定められていない。独占禁止法の条文を見れば、明白である。
   被告らの主張する「排除措置命令」や「罰則」とは、独占禁止法のどの条項に基づくものか明らかにされたい。【求釈明の申立】
(5) 以上のとおり、被告の主張は、独占禁止法や上記告示の趣旨に反する誤った主張である。
2 山陽新聞販売(被告岡山東販売)や被告岡山西販売による押し紙は独占禁止法2条9項5号に基づき公取委が指定する14項(一般指定)に該当することについて。
(1) 仮に上記被告らが「発行業者」ではないことから、同被告らによる原告への押し紙が「新聞業における特定の不公正な取引方法」に該当しないとしても、同被告らの行為は、公取委が指定する一般指定14項の優位的地位の濫用に該当する。すなわち、同項は「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次の各号のいずれかに掲げる行為をすること」とし、同項4号は「取引の条件又は実施について相手方に不利益を与えること」を掲げているところ、本件の押し紙は、まさに、上記被告らがその優位的地位を利用して、正常な商慣習に照らして不当に、原告に不利益を与えてきたものである。
(2) 押し紙に関する法的規制は、独禁法2条9項5項の優位的地位の不当利用に対応した規定で、一般指定でいうと14項に相当するものである。(甲5・236頁。甲6・182頁)。
   したがって、上記被告らが「発行業者」にあたらず、同被告らによる押し紙が上記告示による特殊指定に該当しないとしても、その取引上の優位的地位を利用し、原告に対して押し紙を行って不利益を与えてきた以上、同被告らによる原告への押し紙は、独占禁止法の一般指定に該当する違法行為にあたるというべきである。
3 被告らによる押し紙は共同不法行為であること
   原告の準備書面(1)第3で詳論したとおり、山陽新聞販売(被告岡山東販売)及び被告岡山西販売は、いずれも資本的に被告山陽新聞社の支配下にある。また、山陽新聞販売(被告岡山東販売)及び被告岡山西販売の役員は、現在すべてが被告山陽新聞社の役員又は幹部従業員により独占されている。しかも、そのほとんどが被告山陽新聞社の販売局の所属である。したがって、両被告の販売政策等に関する意思決定や業務執行は、被告山陽新聞社の支配下でなされていることは明白である。
   したがって、山陽新聞販売(被告岡山東販売)及び被告岡山西販売による押し紙政策についても、被告山陽新聞社の販売意方針に基づくものと考えざるを得ない。実際にも、原告が販売会社の担当者に対し、押し紙を減らして欲しいと要請したときにも、担当者は「本社(被告山陽新聞社)の指示があるから変更できない」とか「本社の意向があるから、販売会社では決められない」とか言って、これを拒んできたのである。
   これらの事実からすれば、被告山陽新聞社は、山陽新聞販売(被告岡山東販売)及び被告岡山西販売と共謀して、原告に対し違法な押し紙を行って不利益を与えてきたというべきであるから、共同不法行為責任を負うべきである。
4 山陽新聞販売(被告岡山東販売)及び被告岡山西販売による押し紙が民法709条に該当する不法行為であること
(1) 被告らは、原告と山陽新聞販売(被告岡山東販売)及び被告岡山西販売との取引行為について、原告の意に沿わないところがあったとしても、原告が諸々の利害損失を考慮して取引を続けてきたのであるから、押し紙があったとしても不法行為に該当しないと主張する。
   しかし、被告らの主張は失当である。
(2) 原告は押し紙による不利益を甘受する経済的合理性がないこと
  被告らが供給する押し紙によって原告がこうむる不利益=損失はきわめて甚大である。押し紙とは、原告にとって購読者がいないために購読料を回収できないにもかかわらず、仕入原価の支払いを余儀なくされるものであり、押し紙分は損をするだけなのである。原告の準備書面(1)添付の一覧表から明らかなとおり、原告は、押し紙によって毎月数十万円、原告が販売店を辞める直前には80万円を超えるような損失をこうむっていた。したがって、そもそも原告が押し紙による損失を甘受してまで、押し紙の取引を続ける経済的合理性はない。
   被告らが引用する裁判例(乙5.乙6の1、2)によれば、これらのケースでは、押し紙があったとしても「多額の奨励金・補助金」や「折込広告手終料の上乗せ」という利益があることが押し紙の不法行為を認めない理由とされている。しかし、本件のケースでは、甲4の請求書をみれば明らかなとおり、原告が被告らから多数の押し紙を引き受けたとしても、なんの奨励金も補助金も出ていないのである。また、折込広告手数料についても、広告枚数が実売部数以下であるため押し紙分の上乗せのないものもあるうえ、1部当たりの折込広告手数料の金額は押し紙の仕入原価の半分にも満たない。かえって、被告らにおいて、原告への押し紙分を超える枚数の折込広告料を広告主からだまし取っている疑いすらある。なお、この点はおって詳細に主張する予定である。
   したがって、被告らにおいて、原告が押し紙による利益をも考えて取引を続けてきたと主張するのであれば、どのような利益がいくら原告にあったのかを具体的に主張されたい。【求釈明の申立】
(3) 被告両名の責任原因は不法行為だけではないこと
   原告の主張する被告両名の責任原因は不法行為だけではない。訴状の請求原因第6の1で詳論したとおり、被告両名には、新聞販売委託契約に付随して、原告に対して押し紙による不利益が生じないようにするため、注文部数(実売部数に2%程度の予備氏を加えた部数)を超えて供給してはならない義務がある。しかるに、被告両名はこれに違反して押し紙を続けたのである。したがって、被告両名は債務不履行に基づき、原告のこうむった損害を賠償する義務がある。
第2 上記被告ら準備書面(1)第2に対する反論
 1 被告らによる送り部数(=「夕刊目標部数」)について
   被告らは、原告主張の送り部数について間違いを指摘しているが、資料がないので確認できない。
2 目標数の合意という被告主張について
(1) 被告らは、山陽新聞販売(被告岡山東販売)及び被告岡山西販売は販売会社であるから、販売部数を伸ばすことが同被告らと原告の共通の目標であることを原告は理解し、目標数を合意したと主張する。
  しかし、そのような合意はない。仮にあっても無効である。
(2) 目標数とは、被告らによる原告への販売部数(送り部数)のことであり、実際の購読部数ではない。したがって、販売部数を伸ばすことが被告らの目標=販売方針となるのは理解できるが、それが増えることは原告にとって押し紙が増えること、すなわち損失が増えることであるから、原告の目標となるはずがない。
  たとえば、2007年(平成19)年1月の実際の購読部数はセット・朝刊で1532部であり、注文部数(実際の購読部数に2%の予備紙を加えた部数)にしても1565部である。これに対し、被告らが決定してきた目標数は1899部である。(甲2の9)。実際の購読部数を実に367部も超えている。この目標数が「購読部数の目標」を意味するのであれば、実現不可能な部数を被告らが毎月毎月決定していたことになる。この目標数は、実際の購読部数を367部超える押し紙を原告に購入させるべく被告らが決定したものなのである。
  ここで、再び1999年の告示改正の理由を見ておこう。「現行の規定の仕方からは、発行業者は、発行業者が販売業者の注文部数事態を増やすようにさせた上、その指示した部数を注文させる行為も規制されることが明確になっていないという問題があり、このような行為も明確に禁止の対象とする必要がある」とされている(乙3の2)。すなわち、発行業者と販売業者との合意に基づく押し紙も明確に禁止されたのである。
  本件における被告らによる「目標数」の決定とその目標数に合わせた「仕訳日報表」の提出要求に基づいてなされた押し紙の供給は、告示によって明確に禁止された違法行為である。したがって、このような一連の行為による合意があったとしても、それは公序良俗に違反する違法・無効なものというほかない。
3 架空の領収書について
 被告らは、当時の担当者が架空の領収書の作成を指示したことを否認しているから、そのような事実はなかったと主張する。しかし、原告にとって、そのような領収書を作成する必要もない。担当者が原告に指示したのは、原告自らが何十部もの新聞を購読しているように読者一覧表に掲載させたことであり、その結果、架空の領収書が出来てきたにすぎない。担当者らの意図はABC部数調査に備えるためである。ABC部数の意味などについては、追って主張する予定である。
第3 上記被告準備書面第3について
1 被告山陽新聞社による他の被告らに対する支配について
(1) 被告らは、被告山陽新聞社が保有している被告岡山東販売の株式が全株式の66.37%であるから、持ち株の3分の2に達しておらず、同被告を支配できる状況にないと主張する。
   しかし、残りの33・63%は、被告山陽新聞社の役員または関係者が保有しているはずであるから、被告山陽新聞社が被告岡山東販売を実質的に支配していることは明らかである。
   被告らは、被告岡山東販売の株式の全保有者と保有株式をあきらかにされたい。【求釈明の申立】
(2) 山陽新聞販売出身の役員は一人だけであること
   原告の準備書面(1)第3の2で詳論したとおり、山陽新聞販売(被告岡山東販売)の役員11名のうち山陽新聞販売の出身者は鈴木勝利氏一人だけであり、代表取締役を含め他の役員はすべて被告山陽新聞社の役員及び元社員である。また、被告岡山西販売の役員5名は全員が被告山陽新聞社の役員及び元社員である。以上については、被告らも争わない。
   したがって、山陽新聞販売(被告岡山東販売)及び被告岡山西販売が被告山陽新聞社の意のままになることは明白である。
(3) 販売センターの目標数や実売部数は山陽新聞販売(被告岡山東販売)及び被告岡山西販売が管理し、被告山陽新聞社が関与していないとの被告主張について
   被告らの上記主張は、失当である。
   山陽新聞販売(被告岡山東販売)及び被告岡山西販売の各取締役には、いずれも被告山陽新聞の販売局長または販売局次長であった者が多数就任しており、被告山陽新聞社の販売政策・販売方針に基づいて押し紙が行われていることは明白である。
2 山陽新聞販売(被告岡山東販売)及び被告岡山西販売が原告に対して優位的地位にあること
  被告らは、上記被告らが原告に対して優位的地位にあるわけがないと主張する。しかし、上記被告は原告に対し、「目標数」を一方的に通知し、それに合わせた「仕訳日報表」を提出させていたのである。原告は多数の押し紙があるにもかかわらず、被告らの決定した「目標数」に合わせた「仕訳日報表」を提出しなければいつ改廃されるか分からない状況のもとで取引を続けていたのである。
   被告らが原告に対して優位的地位にあることは明白である。
以上



平成20年 (ワ)第943号 損害賠償請求事件
原 告 原渕茂浩
被 告 株式会社山陽新聞社ほか2名
平成20年10月27日
岡山地方裁判所第1民事部 御中
被告3名訴訟代理人弁護士 香 山 忠 志

準備書面(2)

 目標数の決定に内心不満があったとしても、原告は利害損失を自ら判断して自己の意思に基づき目標数を合意し、あるいはこれに特段の異議を述べず、更に注文部数も自らの意思に基づいて注文しており、その決済も何ら問題なく行われてきており、被告らには何らの不法行為もない。

第1 原告と山陽新聞販売との販売委託契約
1 現在、被告岡山東販売管轄の販売センターは11店(直営店9店)、被告岡山西販売管轄
の販売センターは8店(直営店11店)である。もともと、販売センターは主に増紙(地域に根ざした人に委託販売をお願いした方が増紙効果がある)の効果的対策として考え出されたものである。岡山市富田、神田町1、2丁目ほかを販売地域とする岡輝販売センターは平成10年までは、その一部区域の清輝橋1丁目、2丁目を区域とする清輝橋北販売センター(長田忠俊販売センター長)に販売委託していた。長田氏が体調を崩し、辞めることになったことから、清輝橋北販売センターの区域に富田、神田町1、2丁目を加えて区域を再編し、1年間山陽新聞販売の岡輝支店として直営にしていた。その後、今販売センターの遠部氏から原告を紹介され、当時の営業本部長鈴木勝利氏、社長近常寧氏が面談し、岡輝販売センターを任せることとし、原告にその販売区域について販売委託したものである。
 なお、原告はその直前まで、毎日新聞大阪本社と販売契約を結び毎日新聞藤原販売所長として、山陽新聞販売岡輝販売センターと同様の仕事をしていたが、そこでも購読者を大幅に減らして毎日新聞大阪本社に多額の損害を与え契約を解除されていたことが、最近になって判明した。
2  原告と山陽新聞販売とは平成12年4月24日取引開始日を同年5月1日とする販売委託契約書を締結した(乙7)。この契約書には第8条に「乙は甲に対して5日仕入数をもって取引部数とし、甲はその取引部数で代金額を算定するものとする。」とあるほか、第10条で「乙は甲より指示された、新聞折込広告を責任をもって新聞に折込配布する。毎月の5日の仕入数を当月の折込部数とし、甲は乙に対し、別紙記載の折込手数料を翌月5日に乙に支払うものとする。」、第14条に「本契約の期間は契約成立の日から満1年とする。」とあるほか、更新条項の記載がある。その後、経緯は定かではないが、原告と山陽新聞販売とは平成13年12月1日付けで新たな販売委託契約書を締結している。(乙8)。第5条で原価・手数料は別途定めるとされたほかは、基本的には乙7と変わらないが、異なった用語が用いられている。例えば、第7条の代金額の算定について、「毎月5日の定数をもって取引部数とし・・」とある。この定数とは仕入部数のことである。5日の仕訳日報表によって確定した数という意味で、定数という言葉を使っているものであり、予め定められたという意味で、定数という言葉を使っているわけではない。第8条で「甲は毎月5日の朝刊定数を基に折込手数料を算定し」とあるのは、従来の契約書では仕入部数となっており、夕刊の部数も含むのかとの疑念が指摘されたことから、従来の慣行を明確にしたものであり、何ら変更はない。
   なお、山陽新聞販売が、原告に販売委託した区域は乙7、8と変わらず、仕訳日報表(乙13)の2区から18区の区域である。
3  原告は、開設当初、張り切って営業をしていたようである。山陽新聞販売との取引部数は、全て実売したとの報告を原告から山陽新聞販売が受けている。そして、原告の目標数の合意、取引部数の注文も毎回スムーズにいっており、原告から殊更クレームがついたということもなく、平成18年12月に初めて取引部数(11月分)の決済ができない事態が発生するまでは、決済についても約定どおりなされており、特別に問題があるとは思っていなかった。平成18年12月に決済ができなかった11月分の代金は原告と被告岡山西販売との間で、原告から預かっていた信認金を充当することが合意済みである(乙11の4)。こうしたことがあったので、被告岡山西販売は契約解除あるいは更新拒否を検討しなければならないとの含みを持っていた。平成19年3月12日原告が母親や友人ら数人への置手紙(被告らはその内容は知らない。) を残し、従業員や親族、販売会社へ何の連絡もなく突然失踪した。被告岡山西販売は原告との間の販売委託契約を、同月13日付けで解除した旨を、同月20日付け内容証明郵便  で原告の実家に送付した(乙9の1、2、原告は受領済みである)。被告岡山西販売は、原告が失踪して後、関係各方面を調査したところ、開店1、2年後から、集金管理も読者管理も杜撰な状況であり、更には多年にわたり虚偽の実売報告をしてきた(虚偽の領収証がたくさんあった)ことが分かり、唖然とした次第である。そして、関係各方面への謝罪、配達、集金、読者管理その他、岡輝販売センターの建て直しに大変苦労した経緯がある。詳細は後に述べる。

4  販売会社と販売センターとの関係
(1) 訴状請求原因には圧倒的優位、圧倒的支配下、圧倒的劣位とかの言葉が多用されている。販売センターが被告山陽新聞社、被告岡山東販売、被告岡山西販売の圧倒的支配下にあるとの認識は大いなる誤りである。原告はかつて山陽新聞販売(現在の被告岡山東販売)と販売委託契約を結んでおり、平成18年12月の会社分割後は被告岡山西販売が原告との間の権利義務を引き継いだ(乙10)。しかし、販売会社と販売センターとは共存共栄の関係にあり、販売センターはいわば販売会社のパートナーとして位置づけられる。販売会社は、販売センターとの販売委託契約に基づいて取引しており、購読者の勧誘、読者管理、配達、集金等の販売業務一切を販売センター長に委ねている。基本的には、販売センターの区域内では、販売会社として購読勧誘などはしない方針にしている。従ってその区域で、販売センターが購読者を増やせば販売センターの収益となる。販売センターが営業努力により顧客を伸ばせば、それは販売会社の利益にもつながる。逆に販売センターが区域内の顧客を失えば販売センターの損失ともなる。
  販売会社と販売センターとの契約期間は1年間とされており、期間満了2ヶ月前に異議を述べれば契約は更新されないこととなっている。また、どちらか一方に販売委託契約の契約違反があれば、他方は契約期間内といえども、法廷解除権、約定解除権の行使により契約を解消することもできる。契約期間による縛りがあるのは僅かに1年間であり、販売センターが販売委託契約による利益を享受できないなら、契約を更新しなければすむことである。このように、販売会社と販売センターとは共存共栄のパートナーであって、販売センターが販売会社の圧倒的支配下にあるはずがない。新聞という商品の供給は販売会社を通さねばならず、その点販売センターが販売会社に支配されているという思いがあるかもしれないが、それは継続的な供給契約の特性に基づくものであり、他にも代理店契約やフランチャイズ契約などがあるが、同様である。
(2) 山陽新聞販売は各センターを開設するに当たって、開設の土地建物は山陽新聞販売所有の土地建物を市場価格よりかなり安い価格で貸与している。原告に販売委託した岡輝販売センターとて同様である。原告は開設に当たって、山陽新聞販売の直営の支店として、採用ないし委託していた配達人や集金人をそのまま引継ぎ、折込広告の機械のリースも引継ぎ、いわば開業については新たに信認金(乙7の第13条、乙8の第11条、乙11の1)を入金してもらった程度で開店している。原告を含む販売センターと販売会社とが共存共栄のパートナーであることは以下の事情からも明らかである。
① 販売センター長会議の開催
   山陽新聞販売、被告岡山東販売、被告岡山西販売とも毎月、販売センター長を招集して販売センター長会議を開催する。
  会議には全販売センター長、本店からは社長、営業本部長、各部長、副部長が出席する。
   この席で、販売会社本店の通達をはじめ、出席者で知恵を絞り、営業戦略、営業戦術を協議している。また、その席で、対抗する朝日、読売などの全国紙の販売所やセールススタッフの動向についての情報交換を密に行っている。
   原告は平成14年から2年間、販売センター長の取りまとめ役ある販売センター幹事の役職に就いたことがある。
② 年賀式や創立記念式典の出席
  席上、奨励金の授与、支店・販売センターの従業員拡張の成績優秀者の表彰もしている。
③ 新築マンション等の応援拡張
  新築マンションができると、販売会社の社員、販売センター長が力を合わせて拡販のために営業を行っている。
④ 補助関係
  販売会社は販売センター互助会へ補助金(毎月1販売センター4,000円)を支出し、その資金で年1回、販売会社幹部も同行し、販売センター長対象の1泊2日の懇親旅行を開催している。
  新聞の雨濡防止用のビニールを無料で支給している。
  販売会社は拡張用景品やセールスの拡張料を半額補助している。
⑤ ゴルフコンペの開催
  販売会社の社員、販売センター長でゴルフ部を組織し、定期的にゴルフコンペを開催し、懇親を深めている。
   以上のことからしても原告が圧倒的劣位だとか販売会社の支配下に置かれたとの主張は的外れである。

第2 目標数と取引部数の決め方
1  被告岡山東販売、被告岡山西販売は共に販売会社であり、山陽新聞の売上を伸ばすのが営業目的である。販売センターも、その目的を理解して契約を締結している(乙7の第5項・第11項、乙8の第4項・第9項参照)。
2  山陽新聞販売当時の目標数の合意
(1) 目標数についてはその年によって異なるが、概ね6ヶ月ごとに、その区域の世帯数の増減と市場性を基本として、販売会社の営業本部で素案を作成する。例年、基本的には4月と10月頃の2回行い、上期(12月から翌年5月)の目標数の素案を、翌年4月頃に下期(6月から11月)の目標数の素案を作成するという具合である。その素案が出来上がると、販売センター長の意向を聴取し、目標数を調整合意していた。具体的には販売センター長に販売会社まで出向いてもらい、あるいは、販売会社の担当部長が現地に赴き、センター長と合って調整合意するのである。
(2) もっとも、平成19年度上期(平成18年12月から平成19年5月まで)の分についても会社分割の作業に追われ、目標数決定の作業が遅れ、一部の販売センターにはファックス送信した経緯がある。原告の目標数については、山陽新聞販売の連絡用ボックス又は訪店時に持参した可能性がある。しかし、その場合でも、原告はその示された目標数に多少不満があったのかもしれないが、結局は納得のうえで、平成18年12月以降翌年平成19年3月分まで、毎月、「1日数」の仕訳日報表、そして、「5日数」の仕訳日報表の数値を自ら記載し、有代紙・無代紙を含めた部数を被告岡山東販売・岡山西販売に注文しているわけであり、任意の注文といえる。(乙13)。

2 取引部数の決定
(1) 販売センターは毎月2回(月末と4日前後)にわたり、1ヶ月分の仕入部数を仕訳日報に記載して山陽新聞販売の本店へ提出(主としてファックス送信により提出される)するよう従来からの慣例によって運営してきている。提出日は毎月山陽新聞販売本店総務部が提出日時の指定のある業務日報表を各販売センターに配付し、かつ、ファックスにて連絡することによって知らせている。毎月月末に提出するものを「1日数」、毎月4日前後に提出するものを「5日数」と呼んでいる。例えば、8月末までに9月分の「1日数」を提出するがこれは9月分の予想であり、9月4日前後には9月分を「購読する。購読しない。」の新規顧客の購読意思や従来の購読者の継続購読の意思が判明するので、「5日数」の仕訳日報表を提出し、これが9月分の各販売センターからの確定の注文部数となる。乙7の第8項「5日仕入数をもって取引部数とし」、乙8の第7項「5日定数をもって取引部数とし」とあるとおりである。
   仕訳日報には、「セット、朝刊、夕刊、その他デイリースポーツ」の有代紙のほか無代紙(無料で配付される新聞紙)も含め、注文部数が記載されている。なお、ファックスによる提出がない場合は、販売会社の担当者の柳生久美子(平成8年10月以来ずっと担当し、現在も被告岡山西販売で同じ仕事を担当している)が各販売センター長に電話を架けて「5日数」の仕訳日報表をファックスするよう促し、なおも提出されない場合は柳生久美子氏が電話をかけて「セット、朝刊、夕刊、その他デイリースポーツ」の有代紙のほか無代紙も含め、注文部数を確認していた。(乙18)。
(2) 5日数の仕訳日報表を受け取ってから以後の手続きであるが、柳生久美子氏は「5日数」の仕訳日報表は、確定注文部数なので、この数値を「部数報告受書」(これは確定注文部数をパソコンに入力するためのメモ用紙)に転記し、部数入力担当者(安井忠夫氏)に手渡していた(これを「定数報告」と社内では呼んでいる。注文の確定部数を報告するという意味である)。「部数報告受書」は入力後廃棄されるが、「5日数」の仕訳日報表は柳生久美子氏においてファイルに綴じて残している(「1日数」のものは予想なので廃棄しているのが通常である)。柳生久美子氏が保管していたファイルに綴じられている原告の「5日数」の仕訳日報は乙13のとおりである。乙13の5日数の仕訳日報の注文部数は原告自身が自ら注文した部数であり、これが乙7の第8項の「仕入数」、乙8の第7項の「取引部数」となるのである。販売会社がプラス1の増紙作戦を展開していた時は、原告から5日数で注文してきた仕入部数は目標数に1部上乗せし注文するのが常であった。
3  「セット、朝刊のみ」について目標数・取引部数を原告が下げなかった理由
   原告は夕刊のみの目標数を引き下げて欲しいとの申し出をしたことがあり、夕刊の目標部数を下げたことがあったが、「セット、朝刊のみ」の目標数も取引部数の引き下げについては真剣に申し出ることはなく、下げることはなかった。これは第1に、折込広告の収益が取引部数と連動していることによる(乙7の第10項、乙8の第8項)。原告と山陽新聞販売(現在の岡山東販売)ないし被告岡山西販売との取引額は年間1億円前後にのぼり、販売センターとしては規模の大きな業者である。折込チラシの広告による収益も年間2000万円を超えていた(準備書面(3)参照)。第2に、原告が目標数、取引部数を下げるということは、販売センターとしての業績が低迷していることであり、業績低迷ということになれば、乙8の第12条に基づき山陽新聞販売(現在の被告岡山東販売)ないし岡山西販売が、契約更新を拒否することにもなりかねない。かくして原告としても目標数、取引部数を下げることには消極的にならざるをえなかった。原告失踪後に判明したことであるが、長年にわたり虚偽の領収書まで作成して実売部数を多く
見せかけようとしたのも(後述のとおり)、販売委託契約による利益を失いたくなかったからであろう。
 更に、原告が目標数プラス1部を注文してきたのは、奨励金規定(乙17)に基づき毎月1万円の奨励金が欲しかったからと考えられる。このように原告は自らの意思で目標数を合意し、あるいは特段の異議を述べず、注文した部数の支払いを完済してきたものであり、これが「押し紙だ」とか「不法行為だ」とか、後になって主張するのは見当違いもはなはだしい。

第3 販売センターの実売部数の把握について 
 被告らに原告の実売部数の把握は困難である。
1 被告山陽新聞社には、原告の実売部数などは、原告と直接の取引関係にないため全くつかめない。山陽新聞販売(現在の被告岡山東販売)、被告岡山西販売は原告と直接取引関係にあったが、原告の実売部数の把握は困難である。原告の自主申告により把握するほかない。
2 被告岡山東販売、被告岡山西販売といった販売会社も実売部数を把握する仕組みになっていない。各販売センターは5日数の仕訳日報表を提出した後の翌日の締め切り時間までに、山陽新聞販売本店に「読者登録票」(新規読者登録及び住所氏名の変更をするもの)を記入したものを提出することになっている。それを販売会社の柳生久美子氏が集めて山陽計算センターへ提出することになっている。山陽計算センターでは、「読者登録票」と「増減簿」を基に発行表(これは領収書を発行する集計表(有代部数表)というものである)・読者台帳(これは毎月発行し、区域別に読者データー(口座振替、領収書の内容、契約期間、過去データーなど)を記載しているものである)・領収書(これは集金人が集金に行く際、読者へ手渡すものである。購読者に渡す領収書の控えとして残る半券一枚に印刷されているものである)を作成し、販売会社へ返却される(会社分割後は被告岡山東販売と西販売へ別々に返却される)。担当者の柳生久美子氏が、返却されたら直ちに「読者登録票」と「増減簿」、「発行表・読者台帳・領収書」を各販売センターの専用ボックスに入れる。柳生久美子氏その他の者もこれらの帳簿類の内容を見ることはない。(乙18)。
 なお、原告が失踪してから、架空の領収書が多数見つかっている。
このことは準備書面(3)のとおり。




平成20年(ワ)第943号 損害賠償事件

原 告 原 渕 茂 浩

被 告 株式会社山陽新聞社ほか2名
 平成20年10月27日

岡山地方裁判所第1民事部合議係 御中
           
           被告ら3名訴訟代理人 弁 護 士   香 山 忠 志

準 備 書 面 (3)

  原告が倒産したのは、読者管理・集金管理・新規顧客の営業努力ができていなかったからであり、ごまかしが効かなくなったことが原因である。すなわち原告の営業実態は以下のとおりである。
1 原告は平成12年5月に営業を始めたが、当初は張り切っていた模様である。ところがある程度軌道に乗ってから、原告は営業努力をしなくなった。新規顧客の開拓努力をしない、ゴルフに熱中して仕事をしない、ほとんど従業員まかせで自らは動こうとしないなどの苦情を耳にするようになった。
2 目標数の合意についても、原告からクレームがついてことはなかった。但し平成16年度の下期に行われた目標数の合意にあたり、岡山市東古松5丁目所在のJR社宅の取り壊しが予定されており、「90世帯が移転するため、目標数を減らして欲しい。」との要望が原告から出たが、翌平成17年2月にはJR社宅の跡地に、マンション「サーパス医大南」(86戸)ができるため、山陽新聞販売の赤木営業部長は原告に理解を求め、部数の維持を現状のままとすることを了承してもらったことがある。原告はこれに納得し、現状維持の目標数を合意し、その後も「5日数」による仕訳日報表において目標数通りの注文をしている。更に、平成16年から10月にかけては目標数に1部プラスして注文をしている。
3(1) IT社会の進展による購読者減は山陽新聞の場合、そんなに大きくはない。むしろ購読者減少の主たる原因は原告の読者管理・集金管理の懈怠と原告の営業努力が不足していたことである。
(2) 解約の申し出をした読者の領収書発行を止めるのを忘れていたり、口座振替読者の引き落とし中止の手続きを忘れていたりして、読者から苦情があり返金したりしている。また、留守止めになっている読者を配達員へ指示しないため、そうした者へも配達を続けポストに新聞があふれ、そのために怒った購読者が購読中止を申し出たこともあった。(3) 集金すればもらえる読者に何年も集金に行っていない。被告岡山西販売が岡輝販売センターを引き継いで後、配達員が普段配達している購読者方と読者管理台帳の購読者を比べながら現地を1軒1軒歩いてまわったところ、配達しながら読者台帳にも載っていない読者が50軒、読者には名前が掲載されているが、領収書を発行していない読者が100軒あり、いずれも新聞配達だけして、一切集金がなされていなかった。その150軒については、後に被告岡山西販売の社員が読者に事情を説明し、ご理解していただき改めて購読契約をしていただいた読者が120軒にのぼった。
(4) 更に、領収書を発行させながら、故意にその領収書を抜き取り集金員へ渡していない領収書(乙20の1)や名宛人として「原渕」と記載された領収書(以下、原渕名義領収書という)が多数存在していた(乙20の2)。これは原告が岡輝販売センターの業務を放棄して行方不明になり被告岡山西販売において緊急対応し、その後業務を引き継いだが、同販売センターの大林事務員から事情を聞き、任意に提出してもらったことで判明したのである。(乙19)。おそらく原告が、こうした操作を繰り返していたのは、実売部数を多く見せかけるためであろう。しかし、実際には購読中止により配達していなかったり、実際には購読しているが、何らかの個人的なつながりで購読料の集金をしていなかったりということが原因であろうと推測する。この領収書を発行しながら抜き取って現実には集金していない金額は以下のとおりである。
  平成15年度 648枚 695万8974円
  (うち原渕名義領収書 24枚 505万4846円)
  平成16年度 576枚 676万6750円
  (うち原渕名義領収書 24枚 509万4696円)
  平成17年度 515枚 660万6470円
  (うち原渕名義領収書 24枚 509万4696円)
  平成18年度 607枚 689万4844円
  (うち原渕名義領収書 24枚 509万4696円)
  平成19年度 50枚 57万3376円
  (うち原渕名義領収書  2枚 42万4558円)

   以上の金額は、結局のところ集金できない金額なので原告の負担としなければならない金額である。自招の損害である。
(5) 後に述べる仕訳日報表の数値の記載からも原告の読者台帳の杠撰さがあきらかである。仕訳日報表上の注文部数の数値は原告の自筆である。毎月5日数の仕訳日報表を販売会社において保管しているが、なかなか仕訳日報表を送信してこないため、柳生久美子氏が催促すると原告が1日数の仕訳日報表の日付の○月1日の1の数字を消して5と記入して送信してきたり、原告が5日数を送信してこないため柳生氏が注文部数の数値を原告に確認すると、「1日数と同じでよい。」という返事しか返らないため、柳生氏が1日の1に斜線を引き5と記載して、5日数の仕訳日報表として処理・保存した例も多数ある。(例えば、別紙「仕訳日報表について」の①参照。なお、②のように柳生氏が訂正せずに綴じたものもある)。購読者数はかならず出入りがあるため、5日数と1日数が同数ということは基本的にはありえない話である。仕訳日報表の数値の縦計の検算合計と縦計の合計欄記載の数値が違う、横計合計欄記載の数値が違うということがしばしば存在していた(例えば、別紙「仕訳日報表について」④)。原告は前月の仕訳日報表を翌月の分の仕訳日報表としてそのまま使ったー数値は全て同じ、月の数値が異なるものも多数存在する(例えば、別紙「仕訳日報表について」③)。原告の管轄範囲は2区から18区まであるから各区の読者管理がきちんとできておれば、このようなことは発生しない。更に平成19年1月、2月には19区というものが突然現れて、数値が記載され、その分の区の数値は下がっている。しかし、現実には被告岡山西販売で調査したが、そうした区がなぜ出現しているのか、今でも分からない。原告に尋ねる他ない。
   参考までに乙15、16は他店の仕訳日報表の記載の仕方である。一体、真実の原告の実売部数は何部であったのだろうか。
(6) 原告は購読者が減少しても新規顧客の開拓をしない。新規顧客の開拓のために事前に日程を調整して販売会社から毎月セールススタッフや社員を派遣しても原告はセールススタッフを販売センターで2、3時間も待たせたのち、帰らせたり、あるいは、喫茶店でセールススタッフと時間をつぶして適当に拡張カードを書かせたり、セールススタッフにチラシの折込作業を手伝わせたりしており、原告は新規顧客の拡販の相談指導を目的とするセールススタッフの訪問を面倒くさがっていた節がある。こうした状況であり、新規顧客獲得は望むべくもない。
(7) 原告は減少の原因をIT社会に転嫁している。岡輝販売センターの管轄する地域の世帯数は平成12年5月(5521軒)から平成19年5月(5682)まで161軒増えている。そして、被告岡山西販売がその業務を引き継ぎ拡販に努めたところ、原渕所長失踪後、岡輝販売センターを引き継いだ岡輝支店の従業員は4ヶ月間で区域を完全に整備し、更に4ヶ月かけて全区域の拡張に歩いた結果、朝刊有代部数は、平成19年5月の1417部から平成20年8月現在1504部となり87部増えている(無代紙を含めると朝刊配達部数も平成19年3月の1511部から平成20年8月現在で1616部となり105部増えている。無代紙が増加することは、その購読者が新規契約してくれる端緒となるものである。)。
4(1) 例年、前年の10月頃に販売会社(会社分割前は山陽新聞販売、分割後は被告岡山西販売)は翌年度の毎月の目標数を原告も含むセンター長と協議し合意決定するが、目標数の決定について原告から特別に異論がでたことはない。原告との間で目標数の決定は例年スムーズに行われていた。
(2) 毎月の目標数が決まった後、毎月の取引部数は販売会社あての原告からの部数の注文によって行われる。具体的には上記のとおり、原告が毎月の仕訳日報表(5日付けの仕訳日報表が確定数の注文となる)を自ら手書きしファックスで販売会社に送信してくるのである。仕訳日報表の合計欄の数値は原告の自筆によるものである。この数値は目標数と一致しているか、あるいは一部多い数値である。プラス1の増紙作戦期間中については、毎月の取引部数が毎月の目標数より1部でも多いならば、月額奨励金1万円を取得できるからでる。(乙17)。
  こうして原告が得た拡販奨励金は(平成14年度までは省略した)以下のとおりである。
   平成15年度 21万2400円(その他の奨励金も含む)
   平成16年度  4万円
   平成17年度  1万円
   平成18年度 12万円
   である。
(3) また、折込チラシの広告料も取引部数、したがって、目標部数に連動しているため、取引部数も目標数も引き下げなかったのである。原告の取得した折込チラシの広告料は以下のとおりである。
   平成15年度 2134万8610円
   平成16年度 2183万7031円
   平成17年度 2178万9395円
   平成18年度 2169万8266円
   平成19年度1、2月度(平成18年度12月分を含む)
           740万2494円
(4) 原告は、奨励金と折込チラシの広告料に期待していたのである。
   これが原告が目標数も取引部数も下げなかった理由であると考えられる。
(5) 被告岡山西販売は平成18年12月分の請求書(乙11の2)を送ったところ、平成18年12月19日付けで原告から突然、「納金延期の御願い」が提出された。事情を聞くと、集金遅れ(購読料の回収遅れ)ということであり、12月22日午後には必ず納金するとのことであった(乙11の3)。しかし、期日が来ても98万3221円の請求金額が納金されず、この請求額について、平成19年1月24日に原告から預かっていた信認金と相殺することで合した(乙11の4)。被告岡山西販売が引き継いでから分かったことであるが、原告は配達料、集金料の支払いもたびたび遅れ、やむなく集金人は集金をした中から自分の手数料を控除して残金を原告に渡すなどしていたと集金人が証言している。
5  以上に述べたとおり、原告は管轄区域において、IT社会の進展による影響が全くないとはいわないが、購読者減少、それに伴う収入の減少の原因は、主として原告の怠慢により読者管理・集金管理・新規開拓ができていなかったことによると考えられる。それを今になって、原告は、原告が損害を受けたのは押し紙が原因であると他に責任を転嫁するのは許されないことである。




平成20年(ワ)第943号 損害賠償請求事件
原 告 原 渕 茂 浩
被 告 株式会社山陽新聞社ほか2名
2009年1月13日

準備書面(3)

岡山地方裁判所第1民事部合議係 御中

原告訴訟代理人
 弁護士 位 田   浩

本準備書面は、被告らの平成20年10月27日付準備書面(2)に対する認否・反論を行うものである。なお、同書面の冒頭部分の主張は争う。

第1 上記被告ら準備書面(2)第1に対する認否・反論
 1 第1の1について
   山陽新聞の今販売センター長の遠部氏の紹介により原告が鈴木氏らと面談し、岡輝販売センターにおける新聞販売の委託を受けることになったこと、原告がその直前まで毎日新聞社との間で販売契約を結び毎日新聞藤原販売所をしていとことは認める。同販売所で購読者を大幅に減らして毎日新聞社に多額の損害を与えて契約を解除されたとの点は否認し、その余りは不知。
2 第1の2について
  おおむね認める。
3 第1の3について
  原告が開店当初山陽新聞販売からの送り部数(ただし、サービスを除く)を実売したこと、平成18年11月分の新聞原価の支払いができない事態になるまで約束どおり支払いをしてきたこと、同月分の新聞原価については信認金を充当する旨の合意をしたこと、原告が平成19年3月12日に置手紙をして失踪したこと、原告が被告岡山西販売から同月20日付通知書により同月13日をもって新聞販売委託契約を解除する旨の通知を受けたことは認めるが、その余りは否認する。
   開店当初は山陽新聞販売が実売部数を供給していたから完売できていたにすぎない。また、押し紙のせいで新聞原価を支払えないため未払い残が残っている販売センターは他にもあった。
   原告は、山陽新聞販売が決定した目標数について「できない」「減らして欲しい」とたびたび申し出ていた。しかし、山陽新聞はこれに応じなかった。
   原告の集金管理や読者管理がずさんな状況にあったことはなく、多年にわたり虚偽の実売報告をしたこともない。
4 第1の4について
(1) 同項(1)について
   被告らは、山陽新聞販売(被告岡山東販売)及び被告岡山西販売ら販売会社と原告ら販売センター(販売店)とは共存共栄のパートナーであり、販売会社が販売センターより優位的地位にあるはずがないと主張し、その論拠として、①販売会社は販売センターに販売業務の一切を委ねていること、②基本的に販売センター区域内では販売会社による購読勧誘はしない方針であること、③販売センターが購読者を増やせば販売会社の利益につながり、購読者を失えば販売会社の損失になること④両者間の販売委託契約の期間は1年間であり、販売センターに利益がなければ契約を更新しなければよいことをあげている。
   しかし、被告らの主張は、販売会社と販売センターとの新聞取引の実際に即しておらず、失当というほかないものである。
ア  上記①及び②については、販売会社の優位性を否定するものではない。原告ら販売センター(販売店)が販売委託契約に基づき購読者に対して個別配達による販売や集金を行い、購読の勧誘をするのは当然である。しかし、実際の読者管理は、被告山陽新聞社の関連子会社である株式会社山陽計算センターがしており、被告らは同計算センターから提供される読者一覧表をいつでも確認することができる状態にある。
   原告と山陽新聞販売との契約上も、販売センターは販売会社の支持する帳簿書類を作成・常備し、販売会社が必要とするときは提示しなければならない。したがって、販売センターへの押し紙の部数も常に把握できていたのである。また、購読者への新聞原価を決めるのは被告らであり、原告が決めることはできない。
  購読者の勧誘については、被告らが各販売センターへセールスを派遣し行っている。上記契約の内容(乙7、乙8)をみても、ほとんどが原告の義務と山陽新聞販売の権限について定められている。新聞販売委託契約が片務契約と呼ばれるゆえんである。
イ  上記③については、事実に反する。販売会社は、販売センターの購読者の増減にかかわらず、販売センターへの送り部数を増やせばそれで利益が確保されるからである。それゆえ、山陽新聞販売(被告岡山東販売)らは、原告の岡輝販売センターで購読者が減少してきたにもかかわらず、原告に対する送り部数をほとんど減らさず、逆に増やして押し紙を続けてきたのである。
ウ  上記④については、優位的地位を濫用する典型的な主張である。原告は、山陽新聞販売との契約に基づき、多額の信認金を預けて、販売店の経営をしてきた。儲けがなければ辞めればよいという簡単なものではない。原告においては、被告らの強いた押し紙による損失がなければ、問題なく経営を続けることができたのである。それゆえ、原告は担当者に押し紙を減らすように求めながら経営を続けてきた。しかし、被告らは多数の押し紙によってもたらされる自らの利益を失いたくないため、この減紙の要求を拒み、その優位的地位を利用して原告に対する押し紙を続けてきた。
   したがって、「販売会社が販売センターと共存共栄のパートナーである」などという被告の主張は、全くの虚構というほかない。
(2) 同項(2)について
   被告らの主張する事実のうち、原告が岡輝販売センターの開業にあたって山陽新聞販売に対して信認金470万円を支払ったこと、販売センター長会議が開かれていたこと、年賀式や創立記念日式典への出席を求められたこと、新築マンションが出来たとき販売会社の担当者が拡張に来ることがあること、補助金よる親睦旅行や拡張用景品・セールス拡張料の半額補助があったこと、ゴルフコンペが開催されていたことは認めるが、その余りは否認ないし争う。
   販売センター長会議は、被告らの販売政策を原告ら販売店主に知らしめる場である。それゆえ、この場には、被告山陽新聞社の販売担当者も出席する。原告が幹事の一人になったのは持ち回りで順番がまわってきたからにすぎない。被告山陽新聞社の創立記念式典などに販売店主を招いたり、わずかな補助金などを出したりすることも、被告らが販売店主を支配するための道具である。
   なお、拡張の応援については、原告の場合ほとんど応援らしいものはなかった。
   被告らの主張する事項は、被告らが原告ら販売店主をコントロールするため、おためごかしに行っているのである。それらのために被告らが負担するコストは、被告らが原告ら販売店主から吸い上げる押し紙の新聞原価からすれば、微々たるものにすぎない。「共存共栄のパートナー」の根拠となるものでは全くない。




平成20年(ワ)第943号 損害賠償事件

原 告 原 渕 茂 浩

被 告 株式会社山陽新聞社ほか2名
 平成21年3月6日

岡山地方裁判所第1民事部合議係 御中
           
           被告ら3名訴訟代理人 弁 護 士   香 山 忠 志

準 備 書 面 (4)
 原告の準備書面(2)ないし(4)の主張について被告らの従前の主張に反する部分は
全て否認ないし争う。

第1 原告の準備書面(2)への反論
  1 同準備書面の第1の1について
    告示第9号の「発行業者」に子会社たる新聞販売会社を含むとする解釈は原告の独自の見解である。
    行政手続にも憲法31条の適用のあることは判例の立場であり、告示第9号には「発行業者」を明確に定義している。本件では原告は販売会社が販売センターに対し優位的地位にあるとか、販売会社は発行業者の子会社であるとか主張し、そのことを前提として「発行業者」に販売会社も含めるべきであると主張し、被告らはこれを争っているものである以上、「発行業者の」概念をいたずらに拡張する、あるいは類推する解釈は憲法31条に反し許されない。
    また、「発行業者」に販売会社は含まれないとの確認がなされていないことをもって、原告の主張の根拠としているが、それは逆であり、告示改正の際に、この点に関する議論がなされていないこと、あるいは「発行業者」のなかに「販売会社を含む」と明確に書かれていない以上、告示第9号の「発行業者」には販売会社を含まない趣旨と解するのが文理解釈からしても正当である。
    排除措置命令は独占禁止法第20条に基づくものであり、罰則とは同法第90条第3号に該当する場合のことである。(求釈明への解答)。
  
2 同準備書面の第1の2について
    原告は販売会社による押し紙(被告らは、そもそもかかる用語を用いること自体承知していない。) が一般指定(第14項)に該当すると主張しているが(一般指定第14項の第何項に該当するとの主張か明らかにされたい(求釈明の申立))、販売会社(被告岡山東販売。その後は被告岡山西販売)と原告との販売委託契約(乙7、8)は、販売会社が「優位的地位を利用し」、「正常な商慣習に照らして不当に」「不利益な条件で取引する」ものではない。
    また、原告の主張には原告との販売委託契約が独占禁止法上の特殊指定あるいは一般指定第14項に該当するから、私法上も違法であるとの見解が前提になっている。しかし、独占禁止法は公正な競争秩序の確保という公法秩序に関するものであり、その違反が直ちに私法秩序の上でも無効あるいは違法とされるわけではないことは、最2小判昭52.6.20民集31巻4号449頁からも明らかである。私法上の有効性あるいは違法性は民法90条や民法709条の要件事実該当性を個別具体的に検討して初めて判断し得ることである。まして、本件では一般指定第14項にも該当しない。
3 同時準備書面の第1の3について
   被告らの共同不法行為の主張は全面的に争う。被告山陽新聞社が販売会社である被告岡山東販売、被告岡山西販売を支配下に置くものではないことは、既に被告ら準備書面(1)の4ページ以下で述べたとおりである。
    原告は「原告が販売会社の担当者に対し、押し紙を減らして欲しいと要請したときにも、担当者は『本社の指示であるからできない』『本社の意向であるから、販売会社では決められない』とか言って、これを拒んできた。」と主張している。
   現場でどのようなやりとりがなされてきたかは不知である。しかし、販売会社の担当者が目標部数決定の協議のなかで販売センターに販売会社の意向を受け入れてもらう方便として、そのような言葉を使うことがあろうことは容易に推測がつくものであり、そうした言辞がなされたことをもって、被告山陽新聞社が販売会社を支配している証拠とはならないものである。
4 同準備書面の第1の4について
 (1)(2)について
   原告は販売会社による「押し紙」が民法709条の不法行為であると主張しているが、被告らは訴状添付の一覧表の「押し紙」の数量については全面的に争っている。そもそも販売会社による「押し紙」という概念が存在しないことは従来の主張のとおりである(販売会社には告示第9号の適用がない)。
    原告は「押し紙による不利益を甘受する経済的合理性がない」と主張しているが、原告と被告岡山東販売ないし被告岡山西販売との取引は、平成12年5月1日から平成19年3月まで継続した。そのうち原告は平成15年2月以降に押し紙を主張し損害が発生したと述べている。原告の主張では平成15年に432万円、平成16年568万円、平成17年に750万円、平成857万円、平成19年の1月2月だけで155万円も損害が発生していたというのである。原告のような小規模事業主では平成15年に発生したという452万円もの損害が発生したという。このことだけで販売センターが立ち行かなくなるはずである。しかし、現実には平成19年3月まで事業を継続しているのであり、原告が倒産したのは別の原因であろうと推察される。
    原告は被告岡山東販売(当時山陽新聞販売)から岡輝販売センターを任される前は、毎日新聞藤原販売所、その前は岡山日日新聞の販売局に勤務していた。しかも毎日新聞藤原販売所長をしていた平成8年4月から4年間、原告は中国地区新聞公正取引協議会岡山県支部の下部組織である岡山市東部実行委員会構成メンバーであり、独占禁止法の特殊指定(押し紙)について熟知していた。しかし、その後、原告は山陽新聞販売岡輝販売センター長になってから被告らによる「押し紙」があったとの発言や指摘もしていない。
    原告は「原告が被告らから・・なんの奨励金も補助金も出していない。」と主張しているが、販売センターと販売会社は共存共栄のパートナーであり、各種の支援を行っていることは準備書面(2)の3~6頁で述べている。これに加えテリトリー制に「とり販売会社からも他の販売センターからも顧客を奪われることのない地位が保証されている。
    原告は被告らに対し、どのような利益がいくらあったか具体的に主張されたいというが、それは逆であり、原告が平成12年5月から平成19年3月まで取引を継続してきたのであるから、それは原告にとって経済的合理性、したがって事業収益がそれなりにあったから販売センターを継続してきたのである。原告は独立の事業者であり、被告らには事業収益の詳細は分からない以上、原告においてその収支を明らかにすべきである(求釈明に対する回答と求釈明の申立)。
 (3)について
    争う。販売会社は原告からの5日数による仕訳日報表による注文に部数を原告に送っているわけであり、注文部数を超えた部数を送ってはいない。販売会社には何らの債務不履行もない。
 5 同準備書面の第2の2について
    原告は、(ア)目標数は合意するものではなく販売会社が決定するものである、そのことを前提とし、(イ)目標数の決定とその目標数に合わせた仕訳日報表の提出要求は、まさに告示第9号で禁止されていると主張している。
    しかし、(ア)について、目標数は半年ごとに、販売センターの責任者に販売会社に来てもらい、あるいは販売センター担当者が販売センターに赴いて、合意し又は協議して決めた(但し、平成18年の下期の目標数の設定に際しては販売会社の会社分割手続の混乱もあって、ファックスあるいは持参により目標数を知らせたが、原告はこれに対し何の意義も言わなかった)。そのとき目標数に不満があれば数値を合意又は協議のうえで変更している。(イ)について、目標数はあくまで目標数であり、販売会社は営業が主目的なので各販売センターに実配部数を目標数に近づけるようお願いするが、実配の見込みがない場合には、販売センターは目標数から下げた注文部数を仕訳日報に記載して提出している。目標数と同数又はプラス1部の注文をしてくる販売センターは、信頼関係に基づきそれだけの実配部数があるものと信じてきた。
 6 同準備書面の第2の3について
   原告の反論は否認する。架空の領収証を被告らの担当者が指示する。あるいは示唆するはずがない。原告に販売センターを任せても都合が悪ければ、契約を更新することなく終了し、別の意欲ある人に任せれば済むことであり、架空の領収証の作成を指示あるいは示唆してまで原告の実際の売上部数を仮装させる必要もない。
    むしろ、原告はこうした手口を知悉していたからこそ、目標数の合意に際しても特段の意義を言わず、仕訳日報による注文部数を目標数と同数あるいはプラス1部としても仮想が容易だったわけである。
 7 同準備書面の第3について
   原告の反論については全面的に否認ないし争う。
   被告岡山東販売の株式保有者、保有株式数は個人情報の問題もあり釈明には応じられない(求釈明に対する回答)。
   被告山陽新聞社がその余りの被告を支配していることもないし、押し紙も存在しない。

第2 原告の準備書面(3)に対する反論
 1 同準備書面の第1の1から3について
   原告は毎日新聞藤原販売所長でありながら同社に多額の損害を与えたのである。原告が販売会社に対し目標数について、「できない」「減らして欲しい」とたびたび申し出たことはない。原告からはわずかにJR社宅の立ち退きの際に、そうした申し出があっただけである。原告は顧客管理が杜撰であったこと、多年にわたり虚偽の実配報告をしてきたものである。
 2 同準備書面の第1の4
  (1)について
    すべて否認ないし争う。①②について、原告は「実際の読者管理は被告山陽新聞の関連子会社である株式会社山陽計算センターが行っている。」などと述べているが、責任転嫁も甚だしい。原告は新聞販売を業とすり独立の事業主である。営業も顧客管理も収支決済も税務申告も独自で行っており被告らは何の関与もしていない。原告は販売会社の内部組織の一部門ではない。原告は「被告らは計算センターから提供される読者一覧表をいつでも確認できた。」と主張するが、準備書面(2)の9頁以下で述べたように、そのような仕組みにはなっていない。乙7の第6頁。乙8の第5頁をみても、「読者管理」として「乙は・・帳簿書類を作成し常備し」   なければならないとされており、読者の管理は原告の責任とされている。
    ③について、購読者の増加は販売センター・販売会社の利益であり、購読者の減少は販売センター・販売会社の損失となる。購読者の増減にかかわらず、販売会社が販売センターへの送り部数を一方的に増やすことはない。販売センターによる仕訳日報による注文部数を送っているわけであり、毎月の仕入れ部数(注文部数)は販売センター長自らが読者の動向を見て決めているはずである。④が優位的地位を意味する典型であるなどと主張しているが、優位的地位にある者との取引であったとしてもそれにより取引自体が違憲無効となるものではない。むしろ現実の取引社会では契約当事者の一方が優位的地位にある例は多々存在する。
 (2)について 
    共存共栄のパートナーと捉えているから、各種の親睦や補助がなされているわけであり、これらは被告らが原告を支配する道具として使っているわけではない。   
    「拡張の応援については、原告の場合ほとんど応援らしいものはなかった。」と主張しているが、事実に反する。拡張の応援のために販売会社からセールススタッフが原告を訪ねて行っても、原告が拡販に不熱心であるため、チラシの折込を手伝わされたり、喫茶店で待たされて結局拡販の応援に至らず帰されたとの報告が多々集まっている。
 3 同準備書面の第2の2
  (1)について
   求釈明に対する回答
① について、山陽新聞販売及び被告岡山東販売、被告岡山西販売とも、山陽新等の部数を伸ばすことを目標とする営業会社である。目標数とは、月々の営業目標数である。営業目標数は当然、実配部数である。
② について、そもそも新聞業界では発行本社と販売所は「信頼の関係」で成り立っている。販売会社と販売センターの関係についても、信頼の原則を基本に置いて取引している。それが、新聞業界での長年の商慣習ともなっている。読者数についても、現場の販売センターが把握しており、販売会社は読者数については販売センターの申告を信用せざるを得ないのが一般的である。販売会社で各販売センターの読者数、実売部数を裏付けるのは容易なことではなく的確に把握することは不可能ともいえる。会社によっては読者のデータベースを構築し、会社と販売センターをオンラインで結んで部数管理している会社もあるが、それでも実売部数の把握は困難といえる。
③ について、販売会社と販売センターの取引においても、通常、販売会社は販売センターの実売部数の確認の裏付けまではしていない。販売会社は販売センターの注文部数をもって実売部数と信じて取引を行っている。販売会社が実売部数の確認をするとすれば、販売会社への納金が遅れたり、不審な点があったときくらいである。このように、被告岡山東販売、被告岡山西販売とも毎月、販売センターから送付される仕訳日報表を信用し販売政策を実施しているのである。
④ について、岡輝販売センターは山陽新聞販売岡輝支店であったが、平成12年5月に原告と販売委託契約を結んで岡輝く販売センやーとしてスタートした。原告に委託する際、実売部数は1823部で予備紙はゼロであった。販売会社直営の支店であったから実売数の管理ができていたのである。センターとして販売委託して以後は、原告が販売委託契約に基づいてセンター管理、読者管理をしているものと理解しており、毎月の仕訳日報表を信じて目標数を合意又は協議して決めてきた。①の回答で述べたとおり、販売会社とセンターとは信頼の原則で結ばれており、原告を信用し、信用取引を続けてきた。JR社宅の移転の際は、目標数について担当者と会話しやり取りがあったが、原告が強行に部数減を主張したわけでもない。原告が取引を始めてから「押し紙」などと訴えることもなく、ごく普通の取引が続いてきた。
   (2)について
       原告の主張には大きな事実誤認がある。
       目標数の設定について、販売会社は各販売センターと合意又は協議して決めている。目標数はあくまで購読部数の目標数であって、この数値に近づけるよう販売センターにおいて顧客獲得の努力をする数字である。毎月読者の増減は発生するものだから、1日数の仕訳日報により、その月の販売センターへの注文部数の予備紙を明らかにし、そして5日数の仕訳日報によりその月の注文部数を確定する仕組みである。販売会社は営業が主目的なので各販売センターに実売部数を目標数に近づけるようお願いするが、販売センターが実売の見込みがない場合には、目標数から下げて仕訳日報表による注文をしてくる。目標数と同数又はプラス1部の注文をしてくる販売センターは、信頼関係に基づきそれだけの実売部数があるものと信じてきた。
    4 同準備書面の第2の3について
      (1)(2)について原告の反論はすべて否認ないし争う。
    5 同準備書面の第2の4について
      すべて否認ないし争う。
      「押し紙」という主張は、原告代理人において本件の訴訟になって主張しているだけである。原告は岡山日日新聞の販売局にも勤務し、退職後は毎日新聞藤原販売所長として事業主の経験もある。中国地区新聞公正取引協議会の下部組織、岡山市東部実行委員会の構成メンバーであり、これまで一度として「押し紙」で困っているとの問題提起もなされたことがない。
       朝刊についていえば、目標巣にあわせた部数の注文を出すことにより、多額の折込料期待できるうえ、販売会社から販売成績のうえで優秀者と評価してもらえることを期待しているのである。原告は目標設定には多少の不満があったかもしれないが、利害損失を考慮して目標数に合わせた仕訳日報表による注文を出してきたのである。
    6 同準備書面の第3の1、2について
      被告らの準備書面(2)の9頁以降に記載したとおり、原告の主張はすべて否認ないし争う。
    
   第3 準備書面(4)に対する反論
    1 同準備書面の1について
      原告が怠惰で読者の管理も集金の管理も怠っていたことは、本件訴訟後の販売会社の調査で明らかであり、多くの関係者の証言するところである。
    2 同準備書面の2について
       平成16年度下期の目標数の設定にあたり、原告から「90世帯が移転するため目標数を減らして欲しい。」との話があったようであるが、当時の担当者は原告からの申出が真剣な減紙の申出とは受け取らなかった。これに加えて、この社宅跡地に約半年後の平成17年2月にマンション(86世帯)が完成する予定であったことから、販売会社は部数の目標数を現状のまま維持して欲しいと強く希望し(このマンションに入居者を熱心に勧誘すれば多数の読者を獲得することが可能であると判断した)。原告も了承して目標数の現状維持となったことがある。被告側が違法な「押し紙」を強要したことはない。  
       なを、「JR東古松社宅の山陽新聞の購読者数が90人いた。」と主張しているが、JR(11区)の立ち退きは平成16年に177戸だが、平成15年11月の領収証の控えは19部、口座振替部数は6部の計25部があり、平成16年11月の領収証の控えは15部、口座振替は4部の計19部である。すなわち、当時の山陽新聞の購読者数は20人前後であった。
    3  同準備書面の3について
       被告らが明らかにしたごとく領収書の残券(回収不能の領収書)は年間700万円弱にのぼり、うち500万円強が宛先を原告名義とする架空の領収書である。原告名義分を除くと領収書の残券額(架空分を含む)は180万円前後にのぼる。読者管理や集金管理がきちんとできておれば、このような損失は被らない。毎年200万円の弱の損失を被っておれば、積もり積もって甚大な額となる。
       また、宛先を原告名義とする架空領収書は被告らの担当者が指示したというが、作り話もほどほどにしてもらいたい。その担当者の氏名を明らかにしてもらいたいと求釈明(平成20年8月25日付け求釈明も申立)の申立をしているが、原告は一向に明らかにしないのは、作り話だからである。
    4  同準備書面の4について
       原告は「目標数を被告らと協議したことはないし、被告らが決めて一方的に通知してくる。」と主張しているが事実に反する。例年、上期・下期の目標数の設定にあたっては、販売センターの責任者を個別に販売会社の本店に呼び、あるいは担当者が現地に赴いて、合意し又は協議して決めている。但し、平成18年10月の18年度下期の目標数の設定にあたっては、被告岡山東販売の前身である山陽新聞販売の会社分割の関係で多忙であったことから、原告に対し、ファックスまたは訪店時に持参の方法で知らせた模様であるが、これに対し、原告からは何の異議も出されなかった。
       原告が取得した各月の折込料は乙21の控除明細の「折込料」のとおりである。(求釈明に対する回答)




平成20年(ワ)第943号 損害賠償請求事件
原  告  原  渕  茂  浩
被  告  株式会社山陽新聞社ほか2名
2009年4月27日

準備書面(5)

岡山地方裁判所第1民事部合議係 御中

    原告訴訟代理人
       弁護士  位  田     浩

 本準備書面は、被告らの平成21年3月6日付準備書面(4)に対する反論を行うものである。なお、以下では、山陽新聞販売(被告岡山東販売)と被告岡山西販売とをまとめて「被告販売会社」と呼称する。

1 本件押し紙が独占禁止法に違反することについて
(1)告示第9号の「発行業者」には新聞社の子会社たる新聞販売会社も含むと解すべきことについて
   公正取引委員会告示第9号の「発行業者」には新聞社の子会社たる新聞販売会社も含むと解すべきことは、原告準備書面(2)第1の1で詳論したとおりである。
   被告は、このような解釈は憲法31条に違反すると論難する。
   しかし、本件のように新聞販売会社が新聞社の完全な支配下にあるような場合にも、上記告示の予定する押し紙の禁止が及ばないというのであれば、新聞社とすれば、販売店との間に販売会社を介在させることで、容易に本件告示の適用を免れるという脱法行為を許すことになりかねない。したがって、本件の場合には、本件告示を拡張解釈し、被告販売会社にも適用があるというべきである。
(2)被告販売会社による押し紙は一般指定14項(優越的地位の濫用)に該当することについて
   仮に被告販売会社による押し紙が告示9号に該当しないとしても、一般指定14項(優越的地位の濫用)第4号に該当することは、原告準備書面(2)第1の2で詳論したとおりである。また、被告販売会社による押し紙は、一般指定14項第4号(前3号に該当する行為のほか、取引の条件または実施について相手方に不利益を与えること)のみならず、同項第1号(継続して取引する相手方に対し、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること)にも該当するものと解される。なぜなら、押し紙は、被告販売会社が継続的取引を行っている販売センターに対し、その注文部数を超えて不要な新聞を購入させているものだからである。
   これに対し、被告らは、原告と被告販売会社の販売委託契約書の記載をもとに、優越的な地位を利用し、正常な商慣習に照らして不当に不利益な条件で取引するものではないと主張する。
   しかし、被告らの主張は失当である。
   まず、優越的地位の存在については、一般に、次のような場合に認められる。
   ① 行為者が寡占的な業界に属している反面、取引の相手方が中小企業者であり、行為者の提示する条件を拒絶できない場合、
   ② 行為者との取引のために、相手方が特別の生産体制をとらされている場合、
   ③ 系列化が進んでいる場合、
   ④ 商品・サービスの特性により取引の相手方を変更できない場合、
   ⑤ 行為者が有力な事業者であり、相手方はその行為者と継続的取引をすることによってのみ、事業の継続が可能になる場合
   これらの場合には、相手方の行為者に対する依存度が高く、取引関係を解消することが実質的に不可能であることから、優越的地位が認められるのである(条解独占禁止法・弘文堂212頁)。本件についてみれば、被告らの属する新聞業は寡占的な業界であり、中小企業者にすぎない原告が被告らの提示する条件を拒絶することはできず(①)、山陽新聞の販売センターとして販売地域を限定されて系列化されており(③)、被告らの指定する山陽新聞以外の商品を取り扱うことができない(④)。さらに、被告らは有力な事業者であり、原告の販売センターは被告らとの継続的取引をしなければ事業を継続できない(⑤)。したがって、被告らが優越的地位にあることは明白である。
   次に、実売部数を超えて供給することが正常な商慣習として許容される部数は、実売部数の2%の予備紙だけである。これを著しく超える押し紙を購入させることが「正常な商慣習に照らして不当な取引」であることは、告示第9号の趣旨に照らして明らかである。
   さらに、被告らは原告に対し、押し紙によって購読されない新聞の仕入原価の負担を余儀なくさせているのであるから、不当な不利益を与えていることも明らかである。
   以上からすれば、被告らの原告に対する押し紙は、一般指定14項の優越的地位の濫用に当たるというほかない。
2 本件押し紙が不法行為及び公序良俗違反にあたることについて
(1)本件押し紙が民法709条等の違法性を有することについて
   被告らは、独占禁止法に違反したからといってただちに民法90条や民法709条の不法行為に該当するとはいえないと主張するが、失当である。
   被告らによる本件押し紙は、独占禁止法19条に違反する行為であるところ、この被告らの行為は、それにより故意に(少なくとも過失によって)原告に損害を与えたものであるから、民法709条の不法行為や同法90条の公序良俗違反に該当するというべきである(大阪高判平成5年7月30日判タ833号62頁以下参照)。
(2)被告らによる共同不法行為の成立について
   本件押し紙による不法行為について、被告山陽新聞社に共同不法行為が成立することは、原告準備書面(2)第1の3で詳論した。
   これに対し、被告らは、被告販売会社が被告山陽新聞社の支配下にないとか、販売会社の担当者が「本社の意向だから、販売会社で決められない」等と言ったとしても方便にすぎないと主張する。
   しかし、被告販売会社の資本関係や役員(被告山陽新聞社の代表取締役をはじめとする同被告の役員又は従業員で占められている)を見れば、完全な支配下にあることは火を見るより明らかである。また、担当者による上記発言は、被告山陽新聞社の販売政策ないし販売指示に逆らえないことを述べているのであって、押し紙が同被告の意思のもとに行われていることを基礎付けるものである。
3 原告のこうむった不利益について
(1)被告らは、原告の主張する損害が平成15年に432万円もあれば、それだけで販売センターが立ちゆかなくなるのに、平成19年3月まで事業を継続しているのは、押し紙のほかに倒産原因があると推察されると主張する。
   しかし、被告らの上記主張は、原告の損害に関する主張を正しく理解できていないことによるもので、失当というほかない。
   原告の損害(損失)は、違法な押し紙の新聞原価の支払を余儀なくされたことによる損害(損失)である。つまり、原告は、押し紙がなければ得られていた営業利益を違法な押し紙により被告らに収奪されてきたのである。平成15年の損害(損失)だけで直ちに経営破綻に至るようなものではなかったが、このような損害(損失)が平成18年まで増大し続けたことにより、ついに経営を放棄せざるを得なかったのである。
(2)被告らは、原告が独占禁止法の特殊指定について熟知していたと主張するが、否認する。それを熟知したうえで行っていたのは被告らの方である。
   また、被告らは、原告が「押し紙」の指摘をしていなかったとするが、否認ないし争う。原告は当時「押し紙」という用語は知らなかったが、購読されない送り部数を減らすよう担当者らに求め続けてきた。
(3)被告らは販売センターと販売会社が「共存共栄のパートナー」であると主張するが、かかる主張が失当であることは、原告準備書面(3)第1の4で詳論した。
   また、被告らはテリトリー制により原告を保護しているかのような主張をしているが、裏を返せば、当該地域以外の販売を禁じられていることである。テリトリー制は、まさに被告らの優越的地位を基礎付ける事情の1つにほかならない。
   被告らの主張する押し紙による原告の利益なるものが虚構にしかすぎないことは、原告準備書面(2)第1の4で詳論したとおりである。
4 「注文部数」について
  被告らは、原告からの仕訳日報表の5日数に基づいて新聞を送っているのだから、注文部数を超えていないと主張するが、失当である。
  注文部数とは、実売部数に2%程度の予備紙等を加えた部数をいうのである。公正取引委員会は、株式会社北國新聞社に対する勧告において、「新聞業においては、新聞販売店が実際に販売している部数に正常な商慣習に照らして適当と認められる予備紙等を加えた部数を新聞発行業者に対する『注文部数』としている」と定義している(甲9)。
  さらに、上記事件について、公正取引委員会は、北國新聞社が発行部数を拡大するために増紙計画を策定し、その計画に基づいて、新聞販売店に対して注文部数を著しく上回る部数を目標部数として設定し、その目標部数を新聞販売店に提示することによりほぼ目標部数どおりの部数で新聞販売店と取引をしているとし、それにより新聞販売店においては相当部数の販売残紙が生じ、経済上の不利益を受けていると認定したうえ、北國新聞社に対し、同社が新聞販売店に目標部数を提示してほぼ目標部数どおりの部数で取引することにより注文部数を超えて供給することを取りやめること、新聞販売店が注文部数を自主的に決定しうるようにするための措置を講じること等を勧告した(甲9)。
  本件においても、被告らは原告に目標部数を提示し、ほぼ目標部数どおりの部数で取引することにより注文部数を超えて新聞を供給しており、上記北國新聞社事件で認定された押し紙とほとんど変わらない。しかも、上記事件は従前の告示が改正されて告示第9号が制定される前の平成9年の事件である。平成11年の告示改正の理由は「現行の規定の仕方からは、発行業者が販売業者の注文部数自体を増やすようにさせた上、その指示した部数を注文させる行為も規制されることが明確になっていないという問題があり、このような行為も明確に禁止の対象とする必要がある」とされている(乙3の2)。すなわち、発行業者と販売業者との合意に基づく押し紙も明確に禁止されたのである。本件押し紙は、そのような新聞取引が告示第9号により明示的・具体的に禁止された後のことであって、その違法性は強いというべきである。
5 「目標数」について
  被告らは、目標数は販売センターとの間で協議して決めてきたとか、目標数に不満が出れば数値を変更していたと主張するが、否認する。
  そもそも優越的地位にある被告らが販売センターに対して目標数を提示すること自体が優越的地位の濫用に当たりうるものである。上記の北國新聞社事件においても、公正取引委員会は同社に対し、新聞販売店が注文部数を自主的に決定しうるようにするための措置を講じることを勧告している。平成18年下期の目標数の設定の際にも、原告は被告販売会社に対して減紙を求めたが、拒否された。
  また、被告らは、目標数と同数又はプラス1部の注文をしてくる販売センターについてそれだけの実売部数があるものと信じてきたなどと主張するが、否認ないし争う。「目標数」は被告らも認めるとおり目標にすぎず、実売部数とは異なるのであるから、仕訳日報表の実売部数が目標数と一致すること自体、本来であれば不自然なのである。被告らは、原告の仕訳日報表の部数が実売部数ではなく、被告らが提示した「目標数」にすぎないことを知りながら、その目標部数を供給していた。北國新聞社のしていた違法行為となんら異ならない。
  原告は被告販売会社に対して「読者登録票」や「増減簿」を提出している。それらによって、被告らは実売部数の増減は確実に把握できる。しかも、それらは被告山陽新聞社の子会社である㈱山陽計算センターで一元的に管理され、被告らはいつでも容易に実売部数を確認することができる。また、被告販売会社は原告に対し、必要なときはいつでも読者一覧表や発行表の提示を求めることができる(乙7・6項、乙8・5項)。被告らにおいて実売部数を知らないはずがなく、販売センターの仕訳日報表の部数が実売部数だと信じる客観的な根拠はどこにない。
6 架空の領収書について
  原告準備書面(2)第2の3のとおりである。
  原告に対して架空領収書の作成を指示してきたのは、山陽新聞販売の赤木本部長や小林副本部長らである。また、同人らは原告に対し、ABC部数調査に備えて、架空の読者や架空のコンビニ等の即売場所を作ったり架空のサービス読者を作ったりして新聞が配達ないし販売されているかのように見せかけるための指導を行った。なお、新聞社がABC部数調査に備えて様々な偽装工作を行うことは知られた事実である(甲62・46頁)。
7 被告らが取引上の優越的地位にあること
  被告らが原告に対して優越的地位にあることは、上記1(2)のほか、原告準備書面(3)第1の4で詳論した。
  被告らは、JR社宅の立ち退きの際に原告から減紙の申し出があったことを自認しているが、そのときですら被告らは減紙していない。被告らが取引上の優越的地位を濫用し、原告に対する押し紙を続けてきたことは、この一事をもってしても明らかである。
8 被告らによる実売部数の把握について
  被告らは、販売センターにおける実売部数を把握することは不可能であり、販売センターの申告を信用せざるをえないとか、実売部数について確認したことはなく、販売センターの仕訳日報表を信じているとか主張する。
  しかし、販売センターの実売部数は、上記5で述べたとおり、販売センターから被告販売会社に提出される「読者登録票」や「増減簿」(甲61)により把握できるほか、読者一覧表(甲12~)や発行表(甲21~甲22)をみれば明らかであり、これらの表は被告らが容易に確認できるものであるから、被告らの上記主張は客観的理由を欠き、失当というほかにない。
  さらに、被告販売会社は原告ら販売センターに対し、押し紙と同時に発生する不要な折込チラシを廃棄するための段ボール箱を支給している。押し紙がないというのであれば、このような折込チラシ廃棄用の段ボール箱を支給する必要もない。
  被告らは、その優越的地位を利用して販売センターに実売部数を著しく超える目標数を提示し、その目標数に応じた仕訳日報表を販売センターから提出させていた。被告らが販売センターとの信頼関係があるので実売部数を確認しないなどという主張をするのは、実売部数を知っていたことを認めると、違法な押し紙と知りつつ目標数を設定し新聞を供給していたことを自認することになるからである。
  被告らの上記主張は、実売部数を把握していないことにするためにする主張と考えざるをえない。
9 折込広告料について
  被告は、原告が目標数にあわせた部数を注文したのは多額の折込広告料を期待したからであると主張するが、かかる主張が失当であることは、原告準備書面(3)第2の4や原告準備書面(4)第4項(3)で詳論した。
  被告らから提出された請求書(乙21)によれば、2003(平成15)年2月の折込広告料は100万円にすぎない。朝刊1部当たりにすると、538円(100万円÷1858部)である。このわずかな折込広告料が欲しくて、その4~5倍以上にもなる新聞原価(セットの場合は1部当たり2992円、朝刊の場合は1部当たり2325円)の支払を余儀なくされる押し紙を進んで購入することなどありえない。折込広告料が少しくらい減っても押し紙を減らした方が利益になるである。
  折込広告料は、原告に対する請求から控除される(甲4や乙21の控除明細の「折込料」欄)が、その算出根拠が明らかでない。        
以 上